2020年11月、東京の観劇事情と「エレファント・マン」感想(前編)

 先日、世田谷パブリックシアターで「エレファント・マン」を観劇した。おそらく私にとって今年唯一の観劇になるであろうこの作品。劇場に用意された自分の座席に座る、ただそれだけのことがこんなにも遠くなってしまった今年。

 結論を先に書いておくと、本当に素晴らしい舞台だった。きっとどんなタイミングで観ていたとしても一生心に残る素敵な作品と、よりによってこんな2020年に出会ってしまった。それが幸か不幸かはまだわからないけれど。

 

2020年11月の感染症対策と観劇の記録(東京都世田谷区)

 私がこの舞台のチケットを取ったのは2020年9月12日。世田谷パブリックシアター会員向けのオンライン先行販売だった。予約画面上で座席を指定できる(映画館のチケット予約と同じような)システムでこの時点では「1席飛ばし」、いわゆる市松座席での販売が行われていた。当然、2連番を指定しても間に1席空いている図が画面表示される。映画館の1席飛ばしは既に経験していたので「なるほど、劇場もこんな感じなのか」と思いながら確定ボタンをクリック。2020年初めての現場を手に入れた瞬間だった。

 そして9月19日、イベント人数制限の規制緩和

大声での歓声・声援等がないことを前提としうるもの(クラシック音楽コンサート等)については100%以内、大声での歓声・声援等が想定されるもの(ロックコンサート、スポーツイベント等)については50%以内とする。

 劇場は前半の「大声での歓声・声援等がないことを前提としうるもの」に該当することが発表され、演劇については観客数の制限がほぼ撤廃。センターステージ配置の演目で座席追加が難しそうだったシアターコクーンやご高齢の方の観劇が多い歌舞伎座などが1席飛ばしを継続する一方で(歌舞伎座は11月現在も市松座席を継続中)、公演中の演目の追加席販売を行う劇場も出てきた。

 9月24日、「エレファント・マン」追加座席の販売決定。感染症対策を十分に取った上での全席稼働が再開されることに。翌日9月25日に劇場会員向けの追加席先行販売、26日に一般向けの追加席販売が行われた。

 規制緩和の発表から追加席販売までのこのスピード感、チケット販売関係者の方は本当に大変だったと思う。さらにこの舞台に関しては”1席飛ばしを取りやめたことが不安な方”を対象とした払い戻しにも対応していた。規制緩和のタイミングで追加席販売を行った演目はたくさんあったが、”追加席を販売することによる払い戻し”は私の調べた限り「エレファント・マン」だけだった。

 

 そしていよいよ観劇当日。まずは消毒、そしてチケットをもぎって入場。紙の受け渡しと近距離接近による感染リスク対策のためチケットは自らの手でちぎったあと半券を回収ボックスに入れる形式。きちんと対策が考えられているんだなという印象を受けた。

 ただし一歩足を進めると、少しぎょっとする光景が広がっていた。客席開場前、ロビー開場段階で結構な密状態が発生していた。客席開場を待機する方々、お手洗いに並ぶ列、グッズに並ぶ列…都知事が見たら卒倒しそうなレベルの最早懐かしささえ覚える密。きっと万全の換気が行われているはずなのだが、客席開場まではその様子を確認することも難しいほどの混み具合だった。(スタッフの方はとても丁寧に対応されていたし、もう劇場の構造上これは仕方ないのだろうけど)

 やっとの思いで自分の座席に腰を下ろす。席順は私、知らないひと、そして友人。前述のとおり1席飛ばしから通常稼働に戻った際に連番のあいだの座席が全て追加席として販売されたため、このような不思議な並びが至るところに散見された。私と友人のあいだに座られた方はとても感じの良いお姉さんで、さりげなく会釈してくださったり荷物を避けてくださったりと気を使って頂いてとても有難かった。

 

 結果として観劇から2週間以上経っても発症することなく、勿論公演も続行されているのでこうして記録を残すことにした。2020年11月に東京都内で観劇した感想として、恐らく現時点では「開演ギリギリに到着して速やかに自分の座席に直行すること」がいちばん有効な対策ではないかと思う。できる限り人が密集しないように入場時間は自分で調整すべき、という学びを得ることができた。(帰りは規制退場に従いましょう)

 正直まだまだ不安な点もたくさんある。その一方、前例のない事態に対する劇場側の試行錯誤も身を以って体感した一日。幕を上げるために変わらないといけないのは劇場だけではない。観客側も出来る対策は徹底しなければならないなと改めて思った。

 

 なんだか前置きがとても長くなってしまったので、舞台の感想は後編に続きます。