限界OLと深夜のハッピーサプライズ ~『ハッピーサプライズ』感想~

どうせ耳を塞ぐなら、せめて好きな音が良い。
そう思いながら初めての再生ボタンを押した。本当はこの仕事の山場を越えるまで大切にとっておいて、達成感と共に聴くはずだったハッピーサプライズ。実際は深夜と明け方のあいだみたいな時間帯に、疲れ果てた体で封を切った。ビニールの切れ端はガタガタだった。上司と客先に叱責されて地面にめり込む勢いでへこんでいた。とにかく何か違う音で耳を塞ぎたい。ただただ怒声の記憶から逃れたかった。

でも、聴こえてきたのがあまりにも好きな音で。好きな音をたいせつに歌っている7人の声を聴いて、大げさだけど世界が開けた気持ちになった。ほんの少しだけ気分転換するつもりだったのに、気分どころか目の前の景色まで変わって見えた。気づけば大急ぎでCDを取り込んでいた。イヤホンをしたまま早朝のタクシーで全曲聴いて「うわ〜!全部好きだな〜!」と抱きしめたくなった。

結局繁忙期を乗り越えてから堂々とハッピーサプライズするという誓いは守れなかったが、それでもあの瞬間に聴いたのは正解だったなと思う。

限界OLがなにわ男子さんに救われるシリーズも流石に前回がラストだと思っていたのに、またしても魂を救われてしまった。もはや何度目かわからない。とりあえず今回もこの気持ちを此処に残しておこうと思う。好きなアイドルが自分の好きだと思える歌を歌ってくれることが本当にただただ嬉しかった2022年冬の記憶。


ハッピーサプライズ
最初にタイトルを聴いたときに浮かんだのは、プロポーズとか誕生日とか人生における特別な一日。一世一代の大切な日。でも、2022年のなにわちゃんたちのサプライズはどちらかといえば「なんでもない日を特別にする」歌だった。名前がついていない日すら特別に感じられる、降り積もる雪が魔法だと思える、そんなキラキラした気持ちをぎゅっと詰め込んだ一曲。たとえるならジャニーズ版「お誕生日じゃない日のうた」。『特別な1日を君にリボンをかけて渡そう』でリボンをかけてみたり、『ハッピーサプライズ!』で唇にファスナーをかけてみたり、歌詞の世界観を体現する振り付けもディズニーアニメっぽくて大好き。

きっと5年後に聴いたら「特別な1日を君に」の響きも表情も想起するシチュエーションも今とは全然違うんだろうなあ。2022年のなにわちゃんたちが歌うハッピーサプライズを目に焼き付けたい。そして長尾くんが40歳になってもリボンをかける姿の可愛さに湧いていたいよ。

#MerryChristmas
一人称が「僕」ではなく「僕ら」なのがとても好き。彼氏でもサンタさんでもなくアイドルとファンのクリスマスソングってなんだか珍しくないですか?ちびぬいを可愛がる気持ちに共感してくれたときにも感じたけど、私はこういう“クリスマスプレゼント”の立ち位置で居てくれるなにわ男子さんにとても救われていると思う瞬間がある。
疲れ切った深夜に聴いて初めて気づいたけど、『たった一人で頑張ってる君』をなにわちゃんたちが寄ってたかって楽しませようとしてくれる歌なんですよね。誰よりも楽しみながらこちらも楽しませようとしてくれる、この姿勢こそ私が彼らを好きになったきっかけだなあと。限界OLの涙腺に直撃する一曲だった。あとはなんといってもMVが信じられないくらい可愛い。毎日毎日見るたびに「今日がいちばん可愛い!」と思う。今日がいちばん可愛いし、明日はきっともっと可愛い。そして西畑さんの『溶けない♩』は現存する4文字の言葉史上最も可愛い。

冬がくれたたからもの
一音聴いたらジャニーズソングだと解る音に惹かれるので、製作陣を見ただけでもう好きだと思った。そしてやっぱり好きだった。普段は大橋くんの声がピックアップされることが多いけど、なにわちゃんたちって七者七様にみんな声が特徴的で。そんなフレーバーの違うキャラメルボイスを満喫できる曲。特に『ポケットに入れた君の手 握り返してくれたね』の流星くんの歌い方がとても好き。音楽の専門的な知識は全く無いけど、一音一音に心がこもっていて、音が大切にされているなあと感じて、なんだか丁寧に創られた作品を聴いているという気持ちになれる。あとサビ前の長尾くんからみっちーの流れも多幸感がすごい。道枝くんって喋る声と歌声にギャップがある気がしていて、不意にあの甘い声を浴びると「え?今のパート誰?」と思わず振り向いてしまう。

 『さみしいと気づくほど熱くなる気持ちもある』という真冬の恋の表現があまりにも美しくて、そっと栞を挟みたくなった。

Flower in the snow
個人的には初恋LOVEセカンドシーズンだと思っている。彼女を雪に咲く花にたとえたド直球の初々しさが眩しい一曲。私は長いジャニオタ人生でずっと「今しか歌えない歌」を歌っているアイドルが好きだったけど、その時間は長くは続かないということにもなんとなく気づいてきた。なにわちゃんたちがこの曲のように『キミの前ではカッコつけていたい』を歌ってくれる今を大切にしたい。

『時間よ止まれ… わけないな』で、恭平くんと大橋くんが“ふたりでひとりを歌っている”のがとても良かったな。感情が高ぶった瞬間の、心の中にいろんな方向から声が響いてくるあの感覚が伝わってくる。橋橋の掛け合いパートいろんな曲でもっと聴きたい。

One Pocket
嵐でこの世に生を受けたオタクなので、なんだか再生ボタン押す前から知っていた気がするくらい耳馴染みが良い。2010年頃に国立競技場で空を見上げながら聴いた記憶が蘇ってくる気すらする。嵐を通ってきた方ならなんとなく伝わるかなと思うのですがどうでしょうか。駅のホームに発車ベルが鳴り響き、ポケットを塞ぐスマートフォンがない世界。綺麗な空白だけを残す失恋もアイドルが見せてくれるひとつの夢だなと思う。好きなひとが歌う喪失ってどうしてこんなに惹かれるんだろうね。

あとずっと知ってたけどやっぱり大橋くん歌が上手い。落ちサビ聴くたびに“寂しそう”で“綺麗”な声の表現力と技術力に聞き入ってしまう。「歌が上手・グループ内の歌担当」と既に認識している状態でもまだこんな新鮮に感動できるって凄いこと。きっと想像もできないほどの努力の結果なんだろう。

君に恋をした
今回のCDに収録されている曲本当に全部好きなんですが、その中でも一押しかもしれない。『きっと気づいてくれますか?』で短編映画一本見た気持ちになれる。丈くんほど敬語の歌詞が似合うアイドルはいない。このパート本当に良い。あと大橋くんの『ため息は真っ白』も8音の表現力が凄いし、細かい歌割がなんとも秀逸でキラキラした冬のストーリーが浮かぶ一曲。

息が切れるような全力疾走じゃなくて夜の高速道路を走ってるみたいな、心地よい疾走感のあるサビがめちゃくちゃ好き。首都高をドライブしながら聴きたい。『見慣れたこの街も煌めきを増した』で車窓から覗く東京タワーまで想像できる。


特別なことなんて何ひとつ起こらない日々の中で、自分の好きなアイドルが自分がめちゃくちゃ好きだと思える歌を歌ってくれることは私にとってこの上ないハッピーサプライズです。この作品がたくさんの人たちの特別な瞬間を彩り、あなたにも私にも素敵な冬が訪れますように。

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