アイドルが歌う"自問自答" 〜SexyZone「NOT FOUND」感想〜

 息苦しいほど切実な焦燥感を、お洒落なサウンドアレンジとデザイン性の高いアートワークでパッケージして届ける。着飾ることに器用で伝えることに不器用な“5人らしさ”が昇華された楽曲。それが、NOT FOUNDを初めて聴いたときの感想だった。

 音楽に全くもって詳しくない私でもわかるくらい華やかな音で、聡ちゃんも特典映像で言っていたように「お店でかかっていそう」なほどBGM的雰囲気の高い歌でありつつ、とにかく歌詞が鋭角に心を刺してくる。私はSexyZoneを“自問自答”を歌うことが出来るアイドルだと認識していたけど、今回は本当に自問自答の極みのような楽曲を与えられたなと思った。

 もちろん初見の人がスポットCMや歌番組で見かけたときのトリガーとなるような「カラフルなMVでカワイイ」「亀田誠治さんの編曲なの!?」という楽しみ方もきちんと用意されている。1枚のCDを手に取ったひとりひとりが様々な読み解き方ができることが彼らが創るコンテンツの魅力だと思う。

 

  “誰でもないよ 誰でもないんだ 自分で望んだ世界だ”という聡ちゃんのパートから始まる落ちサビが印象的なこの曲。それぞれに向けた当て書きなのかとすら感じられるほどメッセージ性の高い言葉が続く。きっと心を動かされた人は多いと思う。私だってもちろんその一人だ。

 正直なところ、最初は少し戸惑う気持ちがあった。この曲に対してというよりも、ステージ上のパフォーマンス以外の部分を消費することに、そしてほぼ無意識に消費してしまう自分自身に、私はずっとわずかな違和感と罪悪感のようなものを感じていた。 

 人間関係やその人の生きてきた背景が時としてコンテンツとなるこの時代。「アイドル」はそれが特に顕著な職業で、中でも私の応援しているSexyZoneはバックグラウンドの紆余曲折がコンテンツとして消費されがちなグループだと思う。生身の人間が抱える葛藤を、現在進行形の誰かの人生を、何の責任も取れない私が「感動した」の一言で消費していいのだろうか。

 そんな「バックグラウンドを消費している罪悪感」と向き合うきっかけになったNOT FOUND。私の考えを変えてくれたのは先日行われた配信ライブのアフタートークだった。先述のフレーズについて5人が言及していた。“誰でもないよ 誰でもないんだ 自分で望んだ世界だ"、そうやって「自分に言い聞かせながら歌っている」。聡ちゃんは確かそんな風に言っていた。自分たちと重なる部分がある歌だというニュアンスのことを5人とも話していたと記憶している。

 なんて優しくて、綺麗で、強い人たちなんだろう。こちら側が勝手に消費してしまっているとばかり思っていた、いつのまにか"ドラマ"みたいになってしまった"何か"を、彼らは自らが戦う武器として掲げて生きる道を選んでいた。さまざまな背景も何もかも全て含めて、SexyZoneが今このタイミングで歌うことによってNOT FOUNDという楽曲は初めて完成する。彼らが自らの置かれた背景を表現の糧にすると決めたのなら、こちらはその決意を応援したい。素直にそう思うことができた。"アイドルを愛してアイドルになったアイドル"であるSexyZoneの、覚悟に触れた瞬間だった。

 

 ここ最近のSexyZoneコンテンツの特徴は"センス"と"エモーショナル"に在ると感じていて、NOT FOUNDはまさにそれらの要素を際立たせた彼らの名刺のような一曲だと思う。個性豊かな収録楽曲は勿論、トロンプルイユと平面の青空が印象的なMV、CDジャケットに施されたギミック、ホームビデオみたいに不器用で暖かくて楽しい特典映像たち。近年の彼らのコンテンツの魅力を詰め込んだ"現在"のSexyZoneを知ることができる1枚。「代表曲」が売上によって定義されるものならば、きっとNOT FOUNDは「象徴的な曲」となるはずだ。(もちろん代表曲になってくれたらとても嬉しいけれど)

 大好きだからできるだけ傷つかないで欲しい、でも、そうやって立ち向かっている姿がいちばん美しいことも私は知ってしまったから。どうか彼らの存在証明がたくさんの人の手に届きますように。"夢のまた夢"の果てにある新しい景色を、いつかこの目で見られますように。

 「NOT FOUND」発売おめでとうございます!

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