2020年11月、東京の観劇事情と「エレファント・マン」感想(後編)

小瀧くんのこと

 演出が森新太郎さんで、演目が『エレファント・マン』。
 そのふたつの知識だけを握りしめて着席した。座長の小瀧望くんに関しては、私の応援している菊池風磨くんのお友達のとにかく顔の造形が美しい関西出身のアイドルの方という認識しか持ち合わせていなかった。”アイドルが演じるエレファントマン”に興味があるというただそれだけで此処まで来てしまった。

 膨張した頭部に著しく変形した身体、全身を覆う悪臭、杖無しではまっすぐ立つことすらできない自らの肉体を「奇妙な見世物」として売ることで生計を立てる青年。それを演じる、現役アイドル。「人と異なる外見を売る」職業の残酷さを突き付けられるキャスティング。「見た目の綺麗な人に演じさせたい」と思って小瀧くんにオファーしたという森さんのインタビュー記事を見かけてなんだか納得した。”小瀧くんを選んだ”というその意図に演出のテーマがすべて詰め込まれているように感じた。

 人間の残酷な感情だけを煮詰めて、滝行の如く頭から3時間ぶっ掛け続けられるような作品。原作の大まかなストーリーだけふんわり覚えていて、割とフラットな気持ちで挑んだ私でさえ目を逸らしたくなるようなシーンも多々あった(率直に言うと精神的に相当揺さぶられた。今でもたまに思い出してぼーっとしてしまう)それくらい小瀧くんがエレファント・マンだった。彼の演技を拝見したのは初めてだったが、「こんなところにこんな人がいたなんて…?」という”出会ってしまった”衝撃が凄かった。

 常に苦しそうな呼吸音を発することだけでも体力を使いそうなのに、メリックの肉体を表現するため歪んだ表情と右腕が硬直して膝が曲がりまっすぐ立てない体勢を最初から最後まで保ち続けて1か月走り切った小瀧くん。あの体幹バランスが全く取れなさそうな不安定な姿勢でも発声が安定していてラストシーンまでぶれないのがまず凄い。そしてそれらの身体的演技に圧倒されたことを大前提に、苦悶の表情で発する言葉の数々が刺さって刺さってもうとにかく辛い。あんなに美しい人を全くかっこいいと思えなくなる。ただただ可哀想でたまらなくなるくらい、もういいよ止めてくれ!と叫びたくなるくらい、辛い。「かっこよくて輝いている自担を観に行く」というモチベーションだけでは多分もう座って居られないだろうなと感じた。裏を返せばそれくらいメリックが憑依していた。圧倒的な孤独と寂しさの演技。本当に素晴らしかった。

 何よりも、観劇後に読んだ小瀧くんのインタビュー記事が「やっと舞台をやれる!嬉しい!これはやらないという選択肢はないなと思って飛びついた」という純粋な言葉で満ち溢れていて、この無邪気で明るい姿勢で取り組んでアウトプットがあの演技だったということに心から震えた。きっと真っ白なひとだからこそ真っ黒を表現できたんだろう。「かっこよくて輝いている自担を観に行く」というモチベーションが難しいと前述したが、彼のファンの方々にとってはそれ以上に「自担が”かっこいい”というアイドルの命すら削りながら放つ才能をこの目で見届ける」最高の時間になったのではないだろうか。(勿論、メリックを終えてカーテンコールに現れた『小瀧くん』は瞬きを忘れてしまうくらいかっこよかった。圧倒的に舞台映えするスタイルの良さが印象的だった)

 

作品のこと

 「慈悲深いことがこんなに残酷なら、正義のためにはどんなことをするんです?」

 見世物小屋から解放し、住まいや食事や人との交流を与え、一般的とされる幸福のフォーマットにメリックを近づけてあげることで自らの「慈悲深い」行動に自尊心を満たす人々。一方で、学ぶ機会を与えられて成長すればするほどに自らの決定権の無さを突き付けられるメリック。場所が汚い小屋から快適な病院の個室に変わっただけで、やっていることは見世物小屋のときと何も変わらないんじゃないかという問い。延々と回り続ける回転舞台が閉塞感をうまく表現していて、「これは考えなければいけない問題だ」という感情を呼び起こしてくれる。ラストシーン、メリックは部屋の隅のベッドで眠りにつく。頭部が著しく変形している彼にとって、普通の人のように横たわってしまうことはすなわち気道圧迫による死を意味する。人生のすべてにおいて決定権を奪われた人間が自分の手で唯一選び取ったことが「極めて普通の行動」であることの重さ。ただベッドで眠るだけの無言のシーンがこんなに胸がつぶれそうになるほど苦しい。でも同時に、「では彼にとってどうすることが幸せだったのか?」と聞かれると私にはわからない。たとえそれが残酷な自尊心であったとしても、ただの病院の研究対象であったとしても、周囲の人々のお陰で清潔な環境で満足な食事を与えられて過ごすことが出来ていたのは事実であって。彼にとってこれ以上の幸せがあったのだろうか。

 「考えることを放棄するな」と言われたような気がした。そんな作品だった。2020年唯一の観劇がこの作品で本当に良かったと思う。

 

最後に

 感想やレポを残すことが苦手な私がここまで頑張って書くことができたのは、「配信をひとりでも多くの人に観てもらいたい」というモチベーションがあったからだ。

 「エレファント・マン」動画配信のお知らせ

■配信日:12/5(土)18:00~  ※見逃し配信:12/6(日)18:00まで

■視聴チケット価格:一般 4,000円
■配信サイト:Johnny’s net オンライン(国内配信のみ)

 https://online.johnnys-net.jp/

  もしよかったらぜひ観てみて欲しい。 シンプルに、いろんな人の感想を聞いてみたい。

 レポートとも感想ともつかない散文をここまで読んでいただきありがとうございました。